“30th International Conference on Low Temperature Physics (LT30) ”は、低温物理学に関する世界最大規模の国際会議の1つであり、IUPAP (International Union of Pure and Applied Physics)の後援のもと開催されました。1946年の第1回以来、3年ごとに定期的に開催されており、低温物理学分野において最も長い歴史を有する国際会議です。近年では、Buenos Aires(2014年)、Gothenburg(2017年)、札幌(2022年)で開催されており、本年は2025年8月7日から13日までの7日間、Bilbao Exhibition Centre(スペイン)にて行われました。
会議は「量子気体・液体・固体」「超伝導」「量子材料(磁性・トポロジー)」「ナノ物理学・量子輸送」「量子情報・技術」「極低温技術と応用」の6分野にわたって構成され、世界各国から多数の研究者が集い、各セッションで最新の成果が発表されました。特に、本年は「国際量子科学技術年」にあたり、本分野における近年の顕著な進展について活発な議論が交わされました。
なお、次回の会議(LT31)は、2028年8月6日から12日にかけてPittsburghにて開催される予定です。
私は、“Nodal Structures on Surface Superconductivity in Wallpaper Fermion Systems”というタイトルで、ポスター発表を行いました。
トポロジカル超伝導体の表面には、マヨラナ粒子(Majorana Fermion)と呼ばれる特殊な粒子が現れることが知られています。そしてマヨラナ粒子が他の準粒子と混成することで、トンネルコンダクタンスやジョセフソン電流などの表面に敏感な物理量が、従来とは異なった振る舞いを示すことが報告されています。その中で我々は、「壁紙粒子 (Wallpaper Fermion)」とマヨラナ粒子の混成状態を理論的に研究しています。この系には特殊な結晶対称性があることから、先行研究にはない新しい物性現象が生じると期待されます。
混成状態を議論するためには、「壁紙粒子が超伝導状態においても存在する」必要があります。本研究では、結晶対称性に基づく手法を適用し、超伝導状態における壁紙粒子の存在条件を導出しました。その結果、混成状態の理論的解析が可能となりました。さらに、本研究の議論は結晶対称性のみに基づいているため、本研究成果は物質の詳細に依存しない一般的なものとなっています。よって、多くの候補物質に適用することができ、混成状態を実現する物質の探索や、実験研究の発展に資する方針を与えるものと期待されます。
今回の会議参加は、私にとって初めての海外渡航、初めての国際会議、そして初めての対面での学会発表という大変貴重な経験となりました。実際に世界中の研究者が一堂に会する場で自らの研究成果を発表することは、想像以上に大きな緊張感を伴うものでした。十分な準備を重ねて臨んだこともあり、発表自体は滞りなく行うことができましたが、質疑応答やディスカッションにおいては、英語力不足を痛感し、今後さらに研鑽が必要であると強く感じました。世界各国の研究者と直接議論することで得られる刺激は大きく、将来的には国際会議において口頭発表ができるよう、一層努力を続けていきたいと考えています。
また、滞在中にはヌエバ広場を訪れる機会があり、スペインの食事や美しい街並みを楽しむことができました。研究活動のみならず、文化的な側面からも多くの学びを得ることができました。
博士前期課程の段階で、このような貴重な経験を積めたことは、今後の研究活動において大きな糧になると考えています。最後に、本会議への参加をご支援いただいた丸文財団の皆様に、心より感謝申し上げます。