国際交流助成受領者/国際会議参加レポート

令和7年度 国際交流助成受領者による国際会議参加レポート

受領・参加者名
小野 裕太郎
(筑波大学 大学院理工情報生命学術院 数理物質科学研究群)
会議名
The 38th European Conferenece on Surface Science (ECOSS-38)
期日
2025年8月24日~29日
開催地
Braga, Portugal

1. 国際会議の概要


レセプションパーティーの様子

ECOSS-38は、1978年に始まった欧州最大級の表面科学に関する国際会議であり、表面の物理学・化学における最新進展と産業応用について議論する場である。38回目となる本大会は、ポルトガル北部ミニュ地方の都市ブラガのForum Bragaにおいて、8/24から8/29の日程で開催され、ポルト大学理学部主催の下、真空科学技術応用連合(IUVSTA)と欧州物理学会(EPS)表面界面部門により合同で運営された。

ポスター発表と口頭発表合わせて400件以上の発表が行われ、内容は表面に関する最新の基礎研究から産業応用まで幅広い。分野は表面科学という共通項のもと、触媒、有機分子ナノ構造、二次元材料、ナノエレクトロニクス、バイオナノテクノロジー、機能性材料、エネルギー関連材料など多岐にわたる。

次回のECOSS-39はノルウェーのオスロで開催される予定である。

2. 研究テーマと討論内容

新たなエレクトロニクスの創出に向け、有機半導体の性能向上が望まれる。有機半導体の電荷輸送は、移動積分だけでなく、隣接分子の四重極モーメントによる静電的分極効果にも影響される。単結晶構造ではこれらの効果は打ち消されるが、一次元構造では構造の異方性により顕著になる。特に、フェイスオン吸着した分子とエッジオン吸着した分子が交互に並ぶ「1次元ヘリンボーン構造」では、高密度な分子配置と強い分極効果が期待されるが、実験的研究は限られている。

本研究では、高移動度有機半導体DPh-BTBTの一次元配列に注目し、その電子構造を実験と理論の両面から解析した。DPh-BTBT単分子膜を金属基板に蒸着し構造の膜厚依存性を取得したところ、分子配列がすべての分子がフェイスオン吸着した構造から1次元ヘリンボーンへの相転移を発見した。この過程で、HOMOとHOMO–1のエネルギー差が縮小することがUPSにより観測され、これは分極効果による軌道エネルギーの変化に起因する。さらに、理論計算からは異なる分子間の軌道間結合が強くなる現象が確認され、これらの相互作用により分散したバンド構造が形成されることが示された。

3. 国際会議に出席した成果
(コミュニケーション・国際交流・感想)

ポスター会場では至る所で白熱した議論が交わされており、これまで参加してきた会議では考えられないほど賑やかであった。かなり大声を出して話さないと相手に声が通らないほどである。私の発表にも多くの人が来てくださり、多くの人に我々の研究室で行っている研究について興味を持ってもらえたように思う。また、声量を出す都合上、お互いそこまで早く話すことができなくなっていたのも、英語でのディスカッションに不慣れな私には具合がよかった。最終的にはあまり英語の問題を感じることなく議論を深め最新の研究の詳細を知ることができるようになっていた。

口頭発表も多くの発表者がマイクなど使わず歩き回りながら身振り手振りを交えて発表しており、日本ではほとんど見られないスタイルにとても惹き込まれた。飛び交う質問は鋭いもののあまり殺伐とはしておらず、建設的に議論を深めやすい環境であった。学生も遠慮せず発言できる空気があったので、私も口頭発表に対していくつか質問し、議論を深めることができたと思う。

発表のみならず、コーヒーブレークやディナーなどでも様々な国の研究者や学生と交流することができた。所属研究室から学生は私だけしか参加していなかったが、それもあって、あるイタリア人の博士課程学生と仲良くなった。ポルトガルの治安が良いのも功を奏し、毎晩日を跨ぐまであらゆることを語り明かした。もちろん翌日は朝から会議に参加した。

最後に、このような貴重な機会を与えてくださった一般財団法人丸文財団のご支援に、ここに深く感謝申し上げます。

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