2025年5月に英国ロンドンで開催されたIEEE International Symposium on Circuits and Systems (ISCAS)は、回路およびシステム分野における世界最大規模の国際会議です。
本年度のISCASは、イギリスの首都ロンドン、グリニッジ半島に位置する「InterContinental London - The O2」で開催されました。
本会議には、前年比27%増の1,900件を超える論文投稿が寄せられ、ISCAS史上最多の投稿数となりました。採択率は、全セッションタイプを通じて約60%、通常の口頭発表セッションに限ると約30%であり、過去5年間での採択率(53~65%)の範囲内に収まっています。ISCAS 2025のテーマは「Technology Disruption and Society(技術革新と社会)」で、量子技術、人工知能(AI)、低消費電力設計、バイオ・医療応用、セキュリティ、設計自動化など多岐にわたり、持続可能性や社会実装への関心が強く反映された包括的な内容となっていました。
なお、次回のISCASは2026年5月24日から27日まで、中国・上海にて開催が予定されています。
本会議にて、私は「A probability routing strategy based on sine function gravitational centrality for enhancing network traffic capacity」という題目で、5月26日に“Artificial Intelligence & Complex Networks in Nonlinear Circuits & Systems”セッションにて口頭発表を行いました。
私の研究テーマは、通信ネットワークにおける情報の混雑を防ぐための経路構築手法の開発です。通信ネットワークにおける情報の遅延や通信機器の過負荷を避けるためには、パケット混雑を防ぐことが重要な課題となっています。パケット混雑を防ぐには、最短経路と迂回経路をバランスよく使用する経路を生成することが求められます。そこで本研究では、正弦関数の特性を活用し、ノードの重力中心性に基づく重要度の差を縮小する新たなルーティング戦略を提案しました。数値実験の結果、提案手法は低次数ノードに偏ることなく、高次数ノードも適度に活用することで、従来手法と比較してパケット混雑の防止に有効であることを確認しました。
会期中は、さまざまな国や地域の研究者・学生と積極的に交流を行いました。カターニア出身のイタリア人研究者とは、日本滞在や国際会議の話題を通じて親しく会話することができました。また、中国・南京大学の学生には私の発表に関心を持っていただき、席が離れていた中でも私から声をかけ、連絡先を交換するなど有意義な交流ができました。
日本からの参加者とも多く交流し、富山県立大学、大阪大学、東北大学の先生方や学生と情報交換を行いました。英語のリスニングに関して共通の苦労を共有し、励まし合いながら参加できたことも印象的でし た。また、岡山理科大学や茨城大学の先生方とは夕食をご一緒し、国内学会や研究交流について温かい助言をいただきました。
質疑応答では、「pros and cons(長所と短所)」という初めて耳にする言い回しに戸惑いました。他の聴講者が助けてくれた場面もあり、語学面での課題と今後の努力の必要性を実感しました。本会議への参加を通じて、研究発表だけでなく、異文化交流や語学力向上の大切さを深く学ぶことができました。このような貴重な経験の機会をいただいたことに、ご支援を賜った貴財団に心より感謝申し上げます。