21st European Conference on Thermoelectrics (ECT 2025)は熱電材料や熱電技術に関する欧州最大級の国際会議です。熱電分野における最新の研究成果を共有し、研究者間の交流を深める重要なプラットフォームとして位置付けられています。
今年の会議は、2025年9月8日から12日にかけて、フランス・ナンシーにあるTHE NANCY CONVENTION CENTERで開催されました。世界各国から500名以上の研究者や企業関係者が参加し、連日活発な議論が交わされました。発表内容は、新規熱電材料の探索、理論・モデリング、評価技術、熱電デバイスの応用、熱電変換システムの効率化など、熱電工学の多岐にわたる分野を網羅していました。
発表形式は口頭発表とポスター発表があり、ブレイクタイムやポスターセッション時には、研究者同士が積極的に意見交換を行い、新たな共同研究の可能性を探る場面も多く見られました。また、参加者間の仲もよく、新参者の私にも積極的に話しかけてくださったことが印象的で、年齢や国籍に関係なく、活発な議論が行われていました。
「Improvement of Thermoelectric Performance of Mg2Si Compound by Removing Ag impurities in Si Extracted from Photovoltaic Waste」という題目でポスター発表をしてきました。今後、太陽光パネルの大量廃棄が課題となる中で、電極やフレームなどのリサイクルは進んでいるものの、Siセルに関しては新たな再利用方法が模索されています。私の研究は、この廃棄太陽光パネルのSiセルを熱電変換材料であるMg2Siへアップサイクルすることを目的としています。
研究の結果、Siセル内に含まれるAg不純物がMg2Siの熱電性能を低下させることが明らかになりました。今回の発表では、その性能低下のメカニズムを解明し、性能向上に向けた合成・焼結プロセスの開発について報告しました。
討論時間では、溶剤を使用せずに環境負荷を低減しつつAg不純物を回収する方法や、この技術をモジュール化する際の期待と課題について活発な意見交換を行いました。
今回の発表は、熱電材料を扱う国際会議の中では、廃棄Siのアップサイクルに焦点を当てた点で少し異色なテーマでしたが、多くの参加者から「熱電材料の利用可能性を広げる研究だ」と高く評価していただくことができました。
Best Poster Awardを受賞いたしました。私の研究を高く評価していただき、大変光栄に思います。環境問題への関心が高いヨーロッパでの開催ということもあり、太陽光パネル廃棄物のアップサイクルというテーマが特に注目されたのだと感じています。このテーマが熱電材料分野の利用可能性を広げるものとして高く評価されたことは、大きな喜びです。
学会期間中は、日本国内ではなかなかお話しする機会のない著名な先生方や、同じ分野の若手研究者とも交流を深めることができ、今後の研究に不可欠な貴重なご助言を数多くいただくことができました。このように有意義な時間を過ごせたことは、大きな収穫です。今後研究をさらに良いものにできるように今回の学会で学んだことを活かして参ります。
学会の合間には、開催地であるフランス・ナンシーの街を散策する時間もあり、情緒あふれる落ち着いた街並みは、歩いているだけで心が満たされるような、幸せな時間でした。
今回の国際会議への参加は、一般財団法人丸文財団様からの多大なご支援があってこそ実現したものです。この場をお借りして、心より感謝申し上げます。