国際交流助成受領者/国際会議参加レポート

令和7年度 国際交流助成受領者による国際会議参加レポート

受領・参加者名
蔡 思楠
(東京大学 大学院工学系研究科 電気系工学専攻)
会議名
2025 International Power and Electrical Engineering Conference (IPEE 2025)
期日
2025年9月12日~14日
開催地
中国・無錫大学

1. 国際会議の概要


会議場の様子

International Power and Electrical Engineering Conference (IPEE) 2025 は、IEEEと無錫大学の共催により初めて開催された新しい国際会議であり、電力・電気工学分野の研究者および産業界の専門家が一堂に会し、最新の研究成果と知見を共有する場として企画された。会議は2025年9月12日から14日にかけて、中国・無錫大学にて開催された。

本会議では、電力システムの制御・最適化、蓄電技術、再生可能エネルギー導入、故障検知・予防技術など、電力・エネルギー分野に関する幅広いテーマが取り上げられた。プログラムは、基調講演、口頭発表、ポスターセッションのほか、無錫大学通信工学センターおよび自動化研究室のテクニカルツアーなど多様な形式で構成された。参加者の多くは大学院生による研究発表者であったが、電力会社や電力取引センターなど産業界からの参加もあり、新技術の社会実装に向けた実践的な議論が交わされた。

2. 研究テーマと討論内容


基調講演中の様子

申請者は、Conference Chairである上海交通大学・王志新教授からの招待を受け、「Demand-side Management in Japan's Deregulated Electricity Market」という題目で基調講演を行った。本講演は、日本の電力市場制度の進展と、それに対応したデマンドレスポンス(DR)管理の最新動向を国際的に共有することを目的としたものである。

日本の電力市場は、電力システムの自由化および再生可能エネルギー導入の拡大に伴い急速に変化しており、経済性と系統安定性の両立手段としてDRの役割は一層重要性を増している。講演では、JEPXスポット市場、時間前市場、インバランス料金制度、新設のERPX需給調整市場といった主要制度の特徴を整理し、従来の発電事業者に加えてDRがエネルギー供給や調整力提供に積極的に関与しつつある現状を概観した。

さらに、市場制度と整合的なDR戦略設計に関する最新の研究事例として、EVバスと小売事業者の間の契約設計、複数市場への同時参加を考慮したDR入札戦略、蓄電池を用いたPV発電インバランスコスト抑制手法を紹介した。これらの研究は,価格予測,市場制度,運用最適化を統合的に捉えることの重要性を示しており,実際の市場参加者にとって有用な知見を提供するものである。講演後には,米欧の電力市場との制度設計の違いや,中国における競争的市場の形成可能性とその適用方法について活発な意見交換が行われた。

3. 国際会議に出席した成果
(コミュニケーション・国際交流・感想)

申請者は基調講演に加え、口頭発表セッションのSession Chairを務め、多様な研究発表を聴講した。修士課程学生によるスマートグリッド関連研究(データ駆動制御や機械学習を用いた運用手法)や、地元電力会社による送電線異物検出用ドローン(画像認識技術)の実装事例などを通じて、産学連携による電力分野技術の進展と、研究と実用の接点についての理解を一層深めることができた。


Session Chairとして発表者と撮影した写真

今回の国際会議では、基調講演という重要な機会を通じて、日本の市場制度とDR研究の国際的な位置づけを発信できただけでなく、海外研究者・産業界関係者との議論を通じて新たな視点や協力の可能性を得ることができた。また、Session Chairとして学生や企業研究者の発表に触れる中で、最新の研究動向や産業応用の現場を体感するとともに、次世代研究者育成の重要性についても改めて考える機会となった。Conference Dinnerでは、各国の若手教員と教育・研究体制に関する意見交換を行い、将来的な国際共同研究の可能性についても議論が深まった。

初開催となるIPEEは、今後の電力工学分野における国際的な研究交流のハブとなる可能性を強く感じさせるものであり、本会議への参加は非常に有意義な経験となった。この貴重な機会をご支援いただいた一般財団法人丸文財団に対し、心より感謝申し上げる。

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