ACS Spring 2025 National Meeting & Exposition(米国化学会春季全国大会2025)は、2025年3月23日から27日にかけて、アメリカ・カリフォルニア州サンディエゴのサンディエゴ・コンベンションセンターにて開催されました。本国際会議は、化学分野における主要な国際学会の一つであり、世界中から科学者、研究者、学生、教育者、そして産業界の専門家が一堂に会し、最新の研究成果を共有し、交流を深める場となりました。
本会議のテーマ「Pushing Boundaries. Solving Global Challenges(限界を超えて、地球規模の課題を解決する)」は、気候変動、クリーンエネルギー、環境保護、公衆衛生といった世界的課題に対し、化学が果たすべき重要な役割を強調するものでした。会期中には、技術講演、ポスター発表、ワークショップなど多様な形式のセッションが行われ、材料科学、グリーンケミストリー、計算化学などの新しい研究分野に加え、従来からの幅広い化学分野も幅広く取り上げられました。
総じて、ACS Spring 2025は、学び・議論・協働のための刺激的かつ有意義なプラットフォームを提供し、化学が世界の喫緊の課題解決とより良い未来の構築に果たすべき役割の大きさを改めて示す機会となりました。
本会議では、多岐にわたるシンポジウムやセッションが開催されました。主な研究テーマとしては、材料探索における機械学習、グリーンケミストリーと持続可能性、エネルギー変換のための先端触媒、量子化学およびシミュレーション手法、そして分子設計における新たなツールの開発などが取り上げられました。私は、計算材料設計および触媒に関連する複数のセッションに参加し、特に機械学習に基づく力場と、それを用いた反応機構の解明およびハイスループットスクリーニングへの応用に注目しました。これらの講演では、データ駆動型モデルがシミュレーションの精度と効率をいかに向上させ、反応機構や遷移状態、ポテンシャルエネルギー地形の理解を深めるかが示されていました。また、ハイスループットスクリーニング手法の紹介では、大規模なシミュレーションを通じて、特性を最適化した新規材料や触媒の発見が加速されていることが示されました。
私は、「Machine Learning Molecular Dynamics Simulation of CO2 Hydrogenation to Formate on Cu(111) Surface(Cu(111)」表面上でのCO2水素化によるギ酸生成に関する機械学習分子動力学シミュレーション)」と題した研究を発表する機会をいただきました。私が参加したセッションは「Kinetic and Mechanistic Insights into Catalysis(触媒反応における速度論的・機構的理解」で、CO2 を原料として有用な化学物質へと変換する技術は、地球温暖化対策として非常に有望である一方、反応機構の複雑さから実験的な解明が困難とされています。そこで、機械学習と原子スケールのシミュレーションを組み合わせることで、原子レベルでの現象の理解を深め、反応探索を加速する手法が注目されています。私の発表では、第一原理計算、機械学習、拡張サンプリング法を組み合わせることで、反応速度と反応機構を高精度に予測し、反応加速の鍵となる因子を明らかにできることを紹介しました。
ACS Spring 2025 National Meeting & Exposition(米国化学会春季全国大会2025)では、世界中の研究者と活発な議論を交わすことができ、学術的な視野を広げるとともに、貴重な国際交流の機会を得ることができました。英語での発表や質疑応答を通じて、自身の研究内容を国際的な場で効果的に伝える経験を積むことができたことは、今後の研究活動にとって非常に有意義でした。発表後には、シニア研究者や若手研究者から具体的かつ建設的なコメントを多数いただき、現在のアプローチに対する有益な示唆を得るとともに、将来的な研究の方向性について新たな視点を得ることができました。
また、技術セッションに加えて、北米・ヨーロッパ・アジアなど各国の大学や研究機関の研究者と直接交流できるネットワーキングイベントにも積極的に参加しました。これらの対話を通じて、最新の国際的な研究動向や分野横断的なアプローチに触れるとともに、共通の研究課題に対する多様な解決方法を学ぶことができました。さらに、同分野で活躍する研究者との意見交換を通じて、データ駆動型材料設計や触媒開発に関する共同研究の可能性についても前向きな議論が行われました。参加者のキャリアパスや研究経験を直接聞く中で、材料科学や触媒化学分野における国際的なキャリア形成の多様性や柔軟性についても理解を深めることができ、国際連携の重要性と意義を改めて実感する機会となりました。