国際交流助成受領者/国際会議参加レポート

令和5年度 国際交流助成受領者による国際会議参加レポート

受領・参加者名
木下 圭
(東京大学 生産技術研究所)
会議名
The 25th International Conference on the Electronic Properties of Two-Dimensional Systems
and 21st International Conference on Modulated Semiconductor Structures (EP2DS-25 & MSS-21)
期日
2023年7月9日~14日
開催地
World Trade Center Grenoble, Grenoble, France

1. 国際会議の概要

この度、EP2DS-25 & MSS-21(第25回二次元電子系国際会議/第21回半導体超構造国際会議 合同国際会議)に参加し、研究発表を行った。本合同国際会議は、日本、アメリカ、ヨーロッパを中心に約2年に1度開催しており、今回はコロナ禍を過ぎ6年ぶりに対面での開催となった。約300件の論文投稿があり、さらに著名な研究者の招待講演が加わって充実した会議であった。日本国内からは50名程度の参加で、フランス(開催国)・ドイツに次いで第3位の参加者数だった。

私はEP2DSのセッションにて口頭発表を行った。EP2DSは半導体量子井戸、グラフェン、遷移金属ダイカルコゲナイドなどの二次元電子系、および量子細線や量子ドットが舞台の基礎物理学に焦点が当てられている。

開催地であるグルノーブルには、「量子ホール効果の発見」により1985年にノーベル物理学賞を受賞したKlitzingが、実際に量子ホール効果を発見したLNCMI(国立強磁場研究所)が所在する。本会議でも、量子ホール効果に関する研究成果が多数報告されていた。また、原子層物質に生じるエキシトンに関する発表が多かったのも印象的である。


会場前

会場内

2. 研究テーマと討論内容

原子層物質の一種であるWSe2は、複数層になると量子閉じ込め効果が発現し、従来の半導体量子井戸に類似した性質を持つようになる。そこで本研究では、複数層WSe2を含んだ原子層物質のファンデルワールス(vdW)ヘテロ構造によって、二重量子井戸デバイスを実現した。一般的な二重量子井戸構造において量子井戸間に電圧を印加すると、キャリアがエネルギーと波数ベクトルを保存してトンネルする際に共鳴トンネル効果が起き、電流-電圧特性にピークが生じる。本研究のvdW二重量子井戸においても、負性微分抵抗を伴う電流ピークを観測することができた。

ここで特筆すべきは、vdWヘテロ構造のデバイスであれば、新たなデバイス設計パラメータとして各原子層の結晶方位の角度ずれ(ツイスト角度)を考えることができる、ということである。従来のエピタキシャル構造では、格子整合の影響でツイスト角度の概念を導入できない。そこで本研究では、vdW 二重量子井戸において2つの複数層WSe2量子井戸間のツイスト角度を様々な値に制御し電流-電圧特性を比較した。すると、共鳴トンネルピークを生じさせる印加電圧の値がツイスト角度に応じて系統的に変化していた。このツイスト角度依存性は、複数層WSe2のエネルギーバンドの分散の計算値とよい一致を示していた。このことから、ツイスト角度を制御した共鳴トンネルによって、量子井戸層の物質のバンド分散を実験的に明らかにすることに成功し、物性探索の場としてvdW二重量子井戸を活用できることを示せた。

3. 国際会議に出席した成果
(コミュニケーション・国際交流・感想)

13分程度の口頭発表は予定通りに遂行できたが、その後の質疑応答では質問者の意図を汲み取るのに難儀し座長の方に助けていただいた。ちぐはぐなやり取りにしてしまったことを後悔しているが、発表後に数名の研究者から囲まれて質問を受け、その後のコーヒーブレイクの時間もすべてディスカッションに充てることになったため、自身の発表には手応えを感じられた。また、日本人の少し年上の海外研究者とランチに行く機会に恵まれ、普段の生活やキャリアについての考え方等をお聞きして大変刺激を受けた。このような活発なディスカッションや交流ができたのは対面開催の賜物であるので、今後対面開催の国内外の会議が復活していくことを非常に嬉しく思っている。

結びになりますが、貴財団には本会議への参加において多大なご支援を賜りました。深く御礼申し上げます。海外学会への参加は高額な費用がかかりますが、貴財団の援助によりこのように現地へ行って発表することができました。今回得られた経験は、かかった金額以上の非常に価値あるものになったと感じております。本助成は私のような駆け出しの者にとって大変有益で貴重なご支援であることは間違いありませんので、今後もぜひ続けていただけますと幸いです。

発表の様子

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