国際交流助成受領者/国際会議参加レポート

令和3年度 国際交流助成受領者による国際会議参加レポート

受領・参加者名
齊官 重樹
(千葉大学 大学院融合理工学府 基幹工学専攻)
会議名
Neuroscience 2021
期日
2021年11月8日~11日
開催地
[オンライン開催]

1. 国際会議の概要

Society for Neuroscience主催する Neuroscience 2021 に参加しました。当該分野では世界最大かつ最も権威がある学会となっています。第50回目となる本会議は11月8日~11日の4日間、オンラインでの開催となりました。各参加者が動画でのポスターの発表を行った後、約10名の参加者でディスカッションを行いました。

2. 研究テーマと討論内容

近年のヒトを対象とした非侵襲的脳機能計測により、音声に対する脳活動は非音声に対するそれとは異なることが示されつつあります。これらの研究では、音響的情報の一部を欠落させた劣化音声が用いられてきました。劣化音声に対する了解度を調整し、それに応じて活動が変化する領域を探索することで、音声知覚に関与している領域が特定されてきました。劣化音声に対する了解度を調節する方法としては、欠落させる音響的情報を操作する、あるいは、元音声に関する事前情報を聴取者に与えるのが一般的です。これまで、劣化音声を用いて、大脳新皮質の様々な領域が音声処理に関与していることが示されてきた一方で、統一的な結論には未だ至っていません。統一的な理解を妨げる原因として、上述の劣化音声の了解度を調節する2つの方法が明確に区別されてこなかったことが挙げられます。事前情報として元音声を呈示することで、劣化音声に対する了解度は著しく上昇するため、元音声呈示前後での劣化音声に対する脳活動を比較する研究が多く存在します。この場合には、短期的に記憶した事前情報を取り出し、それに基づいて予測する過程が関与すると推察されます。一方で、音響的特徴を操作することで、了解度を調節した場合には、物理的な音響的情報の処理が重要になると推察されます。それゆえ、元音声を提示した場合とは、活動する神経基盤が異なる可能性があります。そこで、これまでに、脳波を測定することで、劣化音声の音響的特徴を変化させた時に生じる脳活動の変化を調べるとともに元音声呈示前後での脳活動の変化と比較することで、事前情報、および、音響的情報に基づく音声処理の神経基盤の検討を行ってきました。

事前情報、および、音響的情報に基づく音声処理の神経基盤の検討することを目的として、本研究では、劣化音声の音響的特徴を操作することで了解度を調節した場合の脳活動の変化と事前情報を付加した場合での脳活動の変化を比較しました。実験では、音声知覚の重要な音響的特徴の1つであるフォルマントの形状を操作することで、劣化音声に対する了解度を調節しました。まず、脳波を用いて、この了解度の変化に伴う脳活動の変化を評価しました。さらに、元音声呈示前後での劣化音声に対する脳波を比較することで、事前情報の付加によって脳活動に生じる変化を評価しました。脳活動の評価指標として、脳波の自発的な律動に着目しました。脳律動は、その周波数に応じて、反映する知覚・認知処理が異なります。それゆえ、帯域の異なる脳律動を比較することで、劣化音声聴取中に賦活している神経的処理の特性を推定することが可能です。まず、フォルマントの帯域幅を広げることで、劣化音声に対する了解度が上昇することを確認しました。正答率の上昇が確認された範囲においては、元音声呈示後に、呈示前に比べて、測定された脳波のうち 70-100 Hz 帯域の律動の振幅が増加しました。一方で、フォルマント帯域幅に応じた了解度の変化に対応する 70-100 Hz 帯域の脳律動の変化は見られませんでした。70-100 Hz 帯域の脳律動は、短期記憶に関連した処理を反映することが報告されています。それゆえ、これらの結果は、事前情報に基づいた音声知覚には、短期記憶に関連した処理が関与しており、音響的情報に基づいた音声処理とはメカニズムが異なることを示唆したことを発表しました。

3. 国際会議に出席した成果
(コミュニケーション・国際交流・感想)

今回参加した研究集会は、私にとって初めての国際学会での発表の場となりました。私は、集会前に英語を勉強しTOIECで800点を取ったため、英語に少々の自信がありました。しかし、英語でスライドを作成する際やスピーチの原稿を作る際に自分の英語力が十分でないことを痛感しました。さらに、海外の研究者とのディスカッションでも十分にコミュニケーションを取れず、実用的に英語が使えていないことを実感しました。今回の機会を糧に、研究室の海外研究者と積極的にコミュニケーションを行い、議論できる程の英語力を身に着けたいです。また、参加した学会は当該分野では最も権威のある学会だったため、最先端の研究に触れることができ研究の意欲が高まりました。

最後に、貴財団よりご支援賜りまして、心より感謝申し上げます。

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