国際交流助成受領者/国際会議参加レポート

令和2年度 国際交流助成受領者による国際会議参加レポート

受領・参加者名
中山 智仁
(筑波大学 数理物質科学研究科 電子・物理工学専攻)
会議名
The 22nd International conference on ultrafast phenomena (UP 2020)
期日
2020年11月16日~19日
開催地
[オンライン開催] (当初の開催予定地:Shanghai, China)

1. 国際会議の概要

丸文財団より国際交流助成にご採択いただき、この度参加したThe 22nd International conference on ultrafast phenomena (UP 2020) は、隔年で開催される超高速科学分野において、最も権威ある学会である。文字通り、世界中のトップレベルの研究者が集い、アト秒(100京分の1秒)からピコ秒(1兆分の1秒)という極めて短い時間スケールで生じる様々な超高速現象に関する研究成果を発表する。そのため、発表区分は応用、生物、化学、電気・光電気、材料科学、物理、超短パルス光生成技術・測定手法、と多岐にわたる。

講演者として参加するには事前の査読を通過する必要があり、今回の査読通過率は未公表であるが、例年60-70%程度である。さらに、UP 2020の大きな特徴の一つが、講演内容は未発表の研究成果に限られている点である。従って、本会議参加者のみが今後2年間の超高速科学分野のトレンドとなるような研究を直接知る機会を得られることになる。

当初は7月に中国上海で開催予定であったが、新型コロナウイルス (COVIT-19) の感染拡大による影響で3月に11月現地開催に延期することが発表された。その後、8月にオンライン開催に変更することが発表された。発表形式は従来通り、口頭発表とポスター発表の二つがあり、開催予定地であった上海時間で行われた。口頭発表については録画の放映もしくはリアルタイムでの発表となり、ポスター発表についてはUP 2020が用意したテンプレートを使用した短時間の研究紹介動画による発表と2時間のZOOMを使用したリアルタイムでのポスタープレゼンテーションでの発表となった。

なお、次回開催地は社会情勢を考慮して決定するとのアナウンスがあった。おそらく、アメリカワシントン、もしくはオンライン開催になると予想されている。

2. 研究テーマと討論内容

今回のUP 2020において私は、“Ultrafast photoinduced mechanical distortion of carbon nanotubes via electronic excitation”という題目で、Material scienceの区分でポスター発表を行った。

ポスターセッションにてディスカッション中の中山

カーボンナノチューブ (CNT) は高い電気伝導性や強靭な強度などから様々な分野への応用が期待されている次世代ナノ材料の一つである。さらに、生体適合性を持ったCNT材料の開発を目指して、生体内で固有の構造や機能を持つタンパク質を物理吸着もしくは化学修飾することでCNTに新規の機能を付与するといった研究が盛んに行われてきた。本発表では、このタンパク質がCNTの光励起により生じる超高速な機械的物性を変調できることを見出した研究成果を報告した。

本研究の大きな特徴は、2つある。1つは定常的な物性に関する知見として、高い電気化学ポテンシャルを有するフリーのシステイン残基を持ったタンパク質をCNT表面に吸着することでCNTへの電子ドーピングを実現し、CNTのフェルミ準位を変調できたことである。これは熱電特性を測定することで得られたゼーベック係数から明らかにした。また、反射型超高速ポンプ-プローブ分光法を用いて、タンパク質の吸着によるCNTのフェルミ準位の変調がCNTの超高速な機械的物性であるコヒーレントフォノン信号の時間変化に影響をもたらすことを明らかにしたことである。

発表当日は、CNTに焦点を当てた議論が主であった。実験ではコヒーレントフォノンの信号と共にCNTの電子ダイナミクスも観察しており、電子の緩和過程と反射率変化の関係やタンパク質による電子ドーピングによってCNTのバンド構造や共鳴条件にどのような変化が生じているか等に関する質問を頂戴し、活発な議論を行うことができた。

3. 国際会議に出席した成果
(コミュニケーション・国際交流・感想)

今回のUP 2020での発表において、多くの参加者に興味関心を寄せていただいた。中でも、CNTの研究に関わっている研究者の来訪が多く、討論はCNTに関する議論が中心に展開された。オンラインでの開催ではあったものの2時間の発表時間の中で来訪者が途切れることなく10名近い参加者と活発な討論ができたことは非常に幸運であった。

当日の発表ではUP 2020から要求された短時間の研究紹介動画に加えて、自身で個人的に作成した10分程度の動画を用意し、YouTubeに限定公開した。これにより、ZOOMの発表会場に来た訪問者はまず、YouTubeでより詳細な研究発表を閲覧でき、質疑応答に速やかに移行できた。これにより何度も背景から研究を説明する必要なく、2時間の発表時間のほぼ全てを討論につぎ込むことができ、非常に密な議論ができたと感じている。また、オンライン故に実験データやスキームを質問者の意図や状況に合わせて適宜示すことができたことも議論をより密にできたと考えている。

また、今回のUP 2020に参加して私自身が感じたこととして、前回のUP 2018では最年少世代(M2)として何事も教えられる立場であったが、あれから2年が経過し、私よりも若い学生も多く参加しており(特に今回はオンライン開催に変更後、聴講のみの場合は参加費が無料となったため学生の参加者が例年に比べ多かったように思う)、若干の年長者として伝える立場として彼らに接する機会を得たことは貴重な経験であり、彼らの学びに寄与できたことは私の自信にもなったように思う。

一方で、何点か残念な点もあった。一つは、UP 2020のスケジュールが当初の開催予定地である中国上海時間を採用していたため、ポスター発表の時間(現地16:00-18:00)はアメリカにおける深夜の時間帯となり、アメリカ人参加者が極めて少なかったことである。そのため、アジア、ヨーロッパからの参加者が多く、アメリカからの参加者とあまり議論できなかったことが心残りである。また、オンライン故に会場の様子を把握することができず、空いているポスターから見学したり、自身のポスターの宣伝をしたり、人を連れてきたりすることができなかった。さらに、今回は参加者間の学会会場以外での交流の場がなく、普段であれば可能な昼食時に口頭発表の発表者のもとに出向いて議論をするといったことが叶わなかったことも悔やまれる。

本会議への参加にあたり、丸文財団および関係者の皆様はじめ、共同研究者の方々には、多大なるご支援、ご協力をいただきました。当初は私物の低スペックラップトップPCで低解像度カメラとマイクでオンライン学会に参加することも覚悟しておりました。しかし、今回ご助成いただけたことで、ウエブカメラや高性能なマイクを用意することができ、研究室のデスクトップPCでの参加が叶い、煩わしさを感じることもなく、会議に集中することができました。本稿末尾にはなりますが、ここに心より御礼申し上げます。

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