国際交流助成受領者/国際会議参加レポート

令和元年度 国際交流助成受領者による国際会議参加レポート

受領・参加者名
上野 那美
(近畿大学 大学院総合理工学研究科)
会議名
SPIE Optics + Photonics 2019
期日
2019年8月11日~15日
開催地
San Diego, California, United States

1. 国際会議の概要

SPIE OPTOCS+PHOTONICS はSPIE (the international society for optics and photonics) が主催するカンファレンスのシンポジウムの1つで毎年8月にカリフォルニア州サンディエゴのコンベンションセンターにおいて開催される。本年度は8月11日から15日にかけて開催された。本会議には4,000人以上が参加しており、180の企業展示、15の基調講演をはじめとして2,000を超える一般口頭発表、500を超えるポスター発表が行われた。北アメリカを中心に、アジアやヨーロッパを含む多くの国から研究者が参加しており、毎年日本からも多くの参加者が議論を行っている。各日5 から9のセッションが並行で行われている一方、非常に熱心な参加者が多く、どの会場でも多くの人が議論に参加していた。

本学会における今年のテーマが天文であったことからカンファレンスの時間外にNASAの研究者による講演が企画されるなど、本来の学会会場以外でも活発に交流を行うようなプログラムとなっていた。

2. 研究テーマと討論内容

本会議では ‘Changes in electronic states of PEG by forming alkali metal complex’ というタイトルで一般口頭発表を行った。本報告ではアルカリ金属錯体の配位結合の形成に伴う電子状態の変化、特にHOMO-LUMO近傍の軌道エネルギーの変化に着目して研究を行った成果について発表した。具体的な内容を以下に記す。

本研究では錯体の母剤として Poly-ethylene glycol (HO-(CH2CH2O)n-H, PEG) 、アルカリ金属としてLi塩を用いた。ここでPEGの電子状態を既に明らかにしていることから、アルカリ金属塩の添加に伴う錯体形成により、PEGの電子状態変化がどの遷移に対し、どのような要因で起きるのかということを明らかにできるという点に注目した。錯体の形成は振動分光により確認を行っており、振動状態の変化と併せると、錯体の形成により、密度変化以上にPEGの吸光度が減少することがわかった。さらにPEGの吸収スペクトルのピーク波長である155nmと177nmにおいて5nm近い大きな短波長シフト(遷移の高エネルギー化)が起こること、これらのシフトが異なるLi塩の濃度領域で起こることも明らかにした。155nmはLi高濃度、177nmは低濃度でシフトと強度減少が観測されるという観測結果に対してTD-DFT計算 (CAM B3lyp/6-311(g, d++)) によるシミュレーションスペクトルを比較することで錯形成に伴う電子状態変化の要因を明らかにした。155nm, 177nmの変化の要因はそれぞれ異なっており、177nmに関して、吸光度は非配位酸素原子数に依存しており、シフトは配位に伴うPEGの主鎖における電子雲の局在化に依存している。一方155nmは配位結合を形成する酸素原子からの遷移が新たに観測されて結果であり、アルカリ金属錯体自身の電子状態を実測で捉えることができたのではないかと考えられる。非配位酸素と配位酸素原子のLUMOのエネルギーが大きく異なり、配位酸素はLi+が配位結合を形成することにより強く安定化し、このとき非配位酸素に比べると20nm近く遷移が高エネルギー化することがわかった。また、150nm付近に現れる遷移は母財の種類によってわずかに異なり、配意結合の強さを反映する指標となる可能性を示した。

質疑応答において分光学以外の手法への発展について議論を行った。本発表では振動・電子状態の観測に当たり多様な分光法を用いているが、一般的にはイオン電導度などの電気化学分野、もしくは粘度や密度といった物性値が研究されており、既に数多くのデータが蓄積されていることから、これらの研究との比較、関連付けが次のテーマであることを再確認した。また、シフトと強度減少の要因が異なることを再度説明してほしいという要望があったことから、発表の構成やわかりやすさといった点で更なる改善が必要であると感じた。

3. 国際会議に出席した成果
(コミュニケーション・国際交流・感想)

海外で研究を行う日本人研究者
本会議において海外で研究活動を行う日本人研究者と交流を持つ機会に恵まれた。具体的な生活の注意点や該当研究室における位置づけや期待される役割、さらには所属学生などとのコミュニケーションのとり方についてアドバイスをいただいた。重要な点としては非常に当たり前のことではあるが学ぶ立場であると理解し、夢中になって研究を行うこと、生活面では極力現地の学生とともに行動するということが肝要であると感じた。

日本人以外の研究者
ティーブレイクでは短い時間ではあるものの挨拶程度の会話を交わすことを課題とした。会場は広いものの、ティーブレイクの会場は1つであることから人が多く、また自分が参加するセッション以外の研究者とも話をすることができた。また、本会議では交流イベントが活発であり、全員参加のものから学生専用、SPIEの会員のみなど多くのイブニングセッションが開かれており、これらの交流行事に積極的に参加した。welcomeパーティーでは地元の天文クラブによる天体観測が行われており、夕食をとりながらこれを楽しんだ。

また、いくつかのパーティーでは生演奏であったり、ダンスを楽しんだりといったリラックスしたムードの中、女性研究者同士でのファッション批評やライフプラン形成について、もしくは年配の研究者からのおいしいビールのお勧めなど、学生から退官後の研究者に至るまで交流を行った。

今回の学会参加では、発表時に会場の反応を見ていると頷きながら聞いていただている方も多く、内容を理解しながら聞いていただけたおかげで、よい議論ができたと思う。一方、発表以外の部分、パーティーや廊下での会話に関してはとっさの言葉が出てこないことも多く、英語能力の更なる向上が必要であると感じた。しかし言い回しやワード選択を変えながら、何度も伝えることでわかって貰えるケースも多く、片言の英語でも海外の方に伝わることは多いというのを学べたことも非常に良かった点である。また、海外では女性研究者が日本と比べて多く、結婚や出産に関しても日本とは雰囲気が異なるように感じた。さらに学生が口頭発表で積極的に質問を行うというのも日本ではあまり見ることがなく、学ばなければならない点であると思った。このように日本にいてはわからないことを肌で感じることができ、本学会への参加が研究以外の部分でも様々な知見を得た。

最後に本会議への出席に際し、一般財団法人丸文財団より多大なるご支援をいただいたことに心より感謝申し上げます。

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