国際交流助成受領者/国際会議参加レポート

令和元年度 国際交流助成受領者による国際会議参加レポート

受領・参加者名
李 恒
(東京工業大学 工学院電気電子系 電気電子コース)
会議名
2019 International Conference on Flexible and Printed Electronics (2019 ICFPE)
期日
2019年10月23日~25日
開催地
Nangang Exhibition Center, Taipei, Taiwan

1. 国際会議の概要

1-1 国際会議の沿革
International conference on Flexible and Printed Electronics、通称 ICFPE会議は、毎年秋に東アジア都市部で開催される国際会議であり、今年で節目の10周年となる。2009年の韓国・済州島開催の初回を皮切りに、東北大震災により中止となった2011年を除き日・中・韓・台の都市部を持ち回りで開催されている。会議の扱う領域としては、フレキシブルエレクトロニクスに関する研究開発全般をカバーしており、基礎研究領域でのシミュレーション予測から、出口思考の高い産業応用プロトタイプの開発など、萌芽的な領域ではありながらも毎年世界各国から数多くの参加者が集う精力的な取り組みとして、産学領域双方から多大なる注目を集める会議となる。運営委員長には先日「江崎玲於奈賞」を受賞した東京大学の染谷隆夫教授が名を連ねる等、日本からの貢献は極めて大きいと言える。今年は台湾・台北で開催され、台北での開催は2015年の第6回以降2回目である。来年度2020年の第11回会議は新潟での開催が予定されている。

1-2 今年度の注目事項
今年度最も注目を集めた内容としては、会議期間直前に中国政府が発表した台湾への個人渡航制限政策の影響により、数多くの中国本土からの参加者がキャンセルとなり、当日の慌ただしいプログラム修正を始め、例年と比べて参加者数が減ったことが挙げられる。また昨今の半導体業界での成長著しい台湾がホスト国であったこともあり、例年以上に企業からの聴講者(主にはスポンサーでもある台湾半導体メーカー)が多数参加していたことが挙げられる。会議の コンテンツ自身に関しては、フレキシブルエレクトロニクスでの最も勢いのある台頭領域である IoTデバイス・計測応用のセッションに注目が集まり、数多くの聴講者が関心を寄せていた。
当該セッションでの招待講演はフランス Arkema-Piezotech社の Fabrice Domingues Dos Santos博士から発表があった。

2. 研究テーマと討論内容

2-1 発表内容の概略
来たるIoT 時代の信頼性保証手段として、ミリ波・テラヘルツ(THz)・赤外帯電磁波を用いた工業製品・インフラ設備等の非破壊画像診断技術に期待が寄せられている。しかし社会実装への障壁は高く、固体レンズ状の従来型素子では送電線等の歪曲表面スキャンには不適という点が長年問題視されていた。そこで以前我々はカーボンナノチューブ(CNT)フィルムを用いた高感度でフレキシブルな広帯域撮像素子の開発、および触診式非破壊検査応用に成功した。それ を受け報告者はこの度、「携帯式アラウンドビューカメラの創出」・「インフラ設備の非破壊画像診断システムの開拓」を目的に研究を実施した。
本研究成果である「光源搭載型携帯式360° アラウンドビューカメラの創出」および「インフラ設備の高速全方位非破壊画像診断システムの開拓」は、国内外の研究者から注目を集める新規性・実用性の高い研究成果である。よって、フレキシブルデバイスに関する最高権威学会である10th ICFPE にて研究発表をすると共に、国内外の専門家と議論を行うことは、本研究の益々の発展に繋がるだけでなく国内外の関連企業への成果展開・共同研究等に繋がることが期待される。
上述の通り、学術的進展・産業応用展開の両領域に大きく寄与することが、本発表の意義と目的である。

2-2 聴講者との討論内容
本講演はSession12 Measurement and Inspection における口頭発表として採択され、座長を務めた韓国・全北大学校のTae-Wook Kim教授から非常に強い関心を得ることができた。Kim教授との具体的な討論内容に関しては以下の通りである。

2-2-1
光波と比べて長波長なテラヘルツ波では、撮像解像度は照射波長と素子集積密度のそちらに強く依存するか?
→ 本研究では1D アレイ素子を利用するため撮像解像度の検討は今後の取り組みとなるが、照射波長からの寄与がより大きいと言える。
2-2-2
光熱電変換により広帯域電磁波検出を行っているが、最小信号検出時の素子中の温度変化としてはどの程度のスケールになるのか?
→ 実測値と理論計算シミュレーションの結果から、最小信号検出時の温度変化としては10mK程度となることが明らかになっている。
2-2-3
フレキシブルイメージセンサーのデバイス材料であるカーボンナノチューブフィルムは一般的に「半導体質」「金属質」「半導体質・金属質混合」の3種類が挙げられるが、どのタイプが最適材料であるのか?
→ 「半導体質・金属質混合」タイプのカーボンナノチューブフィルムが、フレキシブルテラヘルツ検出器としての最適材料となる。信号検出応答の大きさと高導電率による低ノイズ駆動の両立が極めて重要である。

3. 国際会議に出席した成果
(コミュニケーション・国際交流・感想)

図1 学会会場での写真撮影

3-1 コミュニケーション・国際交流
参加者の多くが台湾・日本・韓国出身ということもあり、多国籍間の研究者メンバー間での研究ディスカッションに加えて、日本語同士・中国語同士・韓国語同士の非常に中身が濃くかつ時として大変白熱した議論に参加したことが印象的である。
更に特徴的な 国際交流としては、学会期間中に用意された食事が挙げられる。中華料理とも和食とも一線を画する独特な台湾料理が数多く提供されたが、私自身にも同行した日本人学生達の口にも非常によく合う内容となっていた。特に台湾の代表料理の一つでもある小籠包やルーローハンは欧米からの参加者からも大変人気であり、学会 昼食や晩餐会はいずれも多くの参加者が集まり終始賑やかな雰囲気であった。

3-2 感想
本研究テーマを扱い始めて2年が経つが、フレキシブルエレクトロニクスに関する国際会議への参加は今回が初めてであり、学びが大変多く非常に実りのある有意義な機会となった。研究討論の内容に関しても、今まで数多くこなしてきた撮像性能やカーボンナノチューブの特性に関してではなく、フレキシブルエレクトロニクス特有の折り曲げ・伸縮に対する機械的耐久性やデバイス作製時の歩留り評価など、今後更に研究を進めるにあたって新たな着眼点を養う貴重な取り組みとなった。
また経済的な不安なく入念な発表準備をこなし、時間的にも精神的にも余裕を持って国際会議に臨めたのは、貴財団のご支援に尽きます。この場をお借りして改めて御礼申し上げます。

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