国際交流助成受領者/国際会議参加レポート

平成27年度 国際交流助成受領者による国際会議参加レポート

受領・参加者名
金子 弘昌
(東京大学)
会議名
2015 環太平洋国際化学会議 (PACIFICHEM 2015)
期日
2015年12月15日~20日
開催地
ホノルル、ハワイ、アメリカ

1. 国際会議の概要

The International Chemical Congress of Pacific Basin Societies (Pacifichem) 2015は日本、アメリカ、カナダ、ニュージーランド、オーストラリア、韓国、中国の7化学会の主催で行われた。1万件以上の発表が多数のセッションで並行して行われており、発表内容は化学分野の多岐にわたる。私が主に参加したセッションはDe Novo Drug Designである。本分野は、コンピュータの性能の向上や蓄積されたデータの増加とともに近年盛んに研究が行われている分野である。セッションでは、複数のタンパク質と複数の化合物との結合情報を、タンパク質および化合物の構造情報のみから推定する手法や、医薬品になりうる構造を効率的に生成して大規模なデータベースにする研究等の講演があった。さらに、実際の標的タンパクを対象にして定量的構造活性相関を行ったりドッキングシミュレーションを行ったりすることでリード化合物を探索する研究も紹介された。De novo drug designのための様々なツールに関する講演もあった。私は本セッションにおいて12月18日の現地時間の午前11:15から11:45で発表を行いセッションの参加者たちと議論した。

2. 研究テーマと討論内容

The International Chemical Congress of Pacific Basin Societies (Pacifichem) 2015において私は新規な化学構造生成手法について講演した。高機能材料を設計する際、仮想的に構造を生成し、それらの構造の物性値を推定してその推定値が望ましい物性を持つ構造を合成することで、材料開発の効率化が達成される。しかし、仮想的な構造が物性推算モデルを構築した化合物の構造と大きく異なる場合、その構造の物性推定値の誤差は大きくなってしまう。モデルが十分な予測性能を発揮できるデータ領域であるモデルの適用範囲の構造のみ推定値が信頼できるわけである。しかし、これまでの化学構造生成手法ではモデルの適用範囲を考慮していなかったため、物性推定値は望ましい値であったとしても、実際にその構造を合成して物性値を測定した場合に推定値との誤差が大きいという問題が生じてしまう。そこでモデルの適用範囲外に生成された構造を適用範囲内に構造変化させる方法を開発した。モデルの適用範囲はデータ密度に基づく非線形モデルとして与えられるため、そのモデルを微分することで対象の構造における微分係数によりどのように構造を変化させればデータ密度が向上するか (モデルの適用範囲に近づくか) 検討できる。実際の材料データを用いた検証によりモデルの適用範囲外の構造を範囲内に変換できることを確認した。

参加者とは主に構造記述子について議論した。上述した方法を使用するためには構造記述子に制限をかけなければならない。しかし制限された構造記述子のみでは適切な物性推算モデルを構築できない場合である。物性推算モデルの推定精度は分子設計結果の信頼性に直結するため、今後は利用可能な構造記述子の制限を緩やかにする方法の開発や新たな構造記述子の開発が望まれる。

3. 国際会議に出席した成果
(コミュニケーション・国際交流・感想)

上述した研究テーマに関するディスカッションや他の海外の研究者の講演に関するディスカッションを通して、多くの方々とコミュニケーションを取れたのは貴重な経験であった。特に構造記述子の開発については海外の研究者との共同研究に繋がる可能性もある。また懇親会でも海外の研究者と交流して色々な話を聞くことができ有意義であった。

今回の発表内容については日本化学会の英語論文誌Bulletin of the Chemical Society of Japanに掲載されている。本研究室では本テーマに関する研究を継続している。

今回の学会を通して得られた成果を武器にして、今後の研究にも励んでいきたい。

平成27年度 国際交流助成受領者一覧に戻る

ページの先頭へ