学会会場となった施設
International Conference on Molecule-Based Magnets (ICMM) は2年に1度開催される国際会議です。本会議は、“分子”に注目した磁性体 (分子性磁性体) を主題としています。分子性磁性体はエレクトロニクスに代わる“スピントロニクス”の分野で待望される材料です。第14回目となる本会議は7月5日から9日まで、ロシアのサンクトペテルブルクにて開催されました。参加者は300名を超えており、その内、招待講演24件、口頭発表38件とポスター発表242件という内容でありました。参加者は物理、化学、生物、工学など様々な分野の方々でした。そのため、異分野間での活発なコミュニケーションが行われていました。2年後のICMM2016は日本・仙台で行われる予定です。
今回の会議で発表した研究テーマは“Single-Molecule Magnets Involving Strong Exchange in Lanthanoid Complexes with 2,2’-Bipyridin-6-yl tert-Butyl Nitroxide”です。
ポスター発表の様子
我々は分子性磁性体と呼ばれる次世代の磁性材料を開発する研究を行っています。この材料の特徴は低次元性と構造多様性にあります。そのため、超高密度記憶材料(従来の1,000倍以上)や量子ビットなどスピントロニクス材料への応用が期待されています。
この分野では、スピンの方向付けとスピン間に働く相互作用の制御が重要になります。当研究では希土類イオン (4fスピン) と安定有機ラジカル (2pスピン) を組み合わせた化合物 (4f-2p系) を対象としています。安定有機ラジカルとは、通常、不安定なラジカル状態を立体保護及び共鳴構造より安定化させたものです。このようなスピン源を用いる研究は極めて新規性の高いものであり、4f-2p系は発展途上な研究分野です。これまでの研究より、4f-2pスピンの間の相互作用と、その立体構造との間に比較的単純な相関が見られることを明らかにしました。これは、スピン間に働く相互作用を構造から制御することに繋がります。今回の発表では、磁気的相互作用を強くするための分子設計と成功した化合物、そして、零次元の分子性磁性体 (単分子磁石) を開発したことについて報告しました。
学会議事録(プロシーディングス)が発行される予定であり、その原稿を現場にて投稿しました。
サンクトペテルブルク市街
私が行っている研究の対象である単分子磁石は、本学会で多くの方が報告していました。しかし、有機物に磁性イオンを持たせた有機ラジカルに着目した研究はいませんでした。そのため、多くの方に話を聞いてもらい、またコメントをいただくことができました。具体的には、構造磁性相関の物理的な意味やterbium(III)イオンとdysprosium(III)イオンでの物性の違いなどが聞かれました。その場で答えられないものもあり、今後の研究に繋がる知見を多く得られました。ただ、初めての英語での発表は、考えをうまく伝えられないことがありました。今よりも語彙力や表現を鍛えて円滑なコミュニケーションを行えるようになりたいと思いました。
最後に、貴財団の多大な支援により、本会議に参加することができました。貴財団に心より感謝申し上げます。