国際交流助成受領者/国際会議参加レポート

平成27年度 国際交流助成受領者による国際会議参加レポート

受領・参加者名
角井 泰之
(慶應義塾大学 大学院理工学研究科)
会議名
European Conferences on Biomedical Optics 2015
期日
2015年6月21日~25日
開催地
Munich, Germany

1. 国際会議の概要

6月21日から25日まで、好天のミュンヘンでEuropean Conferences on Biomedical Optics 2015 (ECBO 2015)が開催された。ECBOはOSA (米国光学会)およびSPIE (国際光工学会)主催のヨーロッパで開催される生体医用光学分野の世界有数の国際会議であり、隔年で開かれている。今回は顕微鏡技術、神経光学、生体分光、拡散光イメージング、光音響イメージング、光コヒーレンスイメージング、レーザの医用応用と生体との相互作用、生体光学の新たな技術と応用、の全8セッションが設けられ、いずれの分野でも最新の研究成果が報告された。会場では様々なメーカーによる大規模な国際展示会も共催されており、大学や研究機関の研究者のみならず企業からも多くの人が参加し、大きな賑わいを見せた。会場となったInternational Congress Centerの写真を示す。

2. 研究テーマと討論内容

光音響イメージング法は、腫瘍の血管構造を深さ分解的にイメージング可能であり、新しい腫瘍診断法として注目されている。また、造影剤を用いるとより高感度な検出を達成可能であり、従来は動物実験レベルでは金属ナノ粒子や炭素ナノ粒子などが使用されてきた。しかし、これらの粒子は細胞毒性を有するため臨床応用は困難である。そこで我々は、近赤外蛍光色素であるIndocyanin Green (ICG)を内包した生分解性ポリマーナノ粒子 (ICGラクトソーム)を用いた。本薬剤は生体適合性が高く、またICGは光吸収により殺細胞効果を有する一重項酸素を発生するため、癌の光線力学療法にも利用可能である。今回私は、本研究により得られた成果を当該会議で口頭発表した。

マウス皮下腫瘍モデルを対象にICGラクトソームを尾静脈投与し、18時間後に光線力学的治療を実施した。その間、光音響イメージングにより腫瘍中の薬剤分布および血管をイメージングした結果、薬剤の腫瘍での集積および治療による光褪色の様子を観測した。また、腫瘍中の血管のイメージング結果から、治療後にその効果を示す血管の閉塞および血流の低下が確認された。以上の結果は、生体への安全性の高い本薬剤が腫瘍の診断および治療のための有用な薬剤であることを示している。

質疑応答では、座長のHelmholtz Zentrum MunchenのProf. Vasilis Ntziachristosより、ICGの従来のイメージング技術である蛍光法との比較に関する質問を受け、光音響イメージング法の方が原理的に生体深部のイメージングに長けていること、また治療上重要な薬剤の深さ分布情報が得られることを利点として述べた。また、同研究所のDr. Murad Omarより、高繰り返し光源と高速ステージの使用による撮像時間短縮のための技術的改善に関するコメントがあった。

3. 国際会議に出席した成果
(コミュニケーション・国際交流・感想)

光音響イメージングは近年注目を集めている生体診断技術であり、会場に用意された50人規模の部屋には立ち見が出るほどの盛況であり、自身の研究を多くの聴衆に向けて情報発信する絶好の機会となった。私にとって今回は10度目の国際会議発表であり、落ち着いて発表に臨むことができた。発表後には複数の研究者から質問・コメントを受けるなど、反響をその場で感じることができ、大変有意義な発表となった。当該分野は近年欧州でも盛んに研究が進められているため、本会議では基礎から臨床まで幅広く最新の研究成果と動向を収集でき、今後の私の研究方針を決める上で有益なものとなった。

会議終了後、発表時に質疑討論を行ったHelmholtz Zentrum Munchenの研究者らを訪問し、実験施設を見学させてもらうとともに、互いの最新の研究内容に関するディスカッションを行った。

この度の海外渡航にあたり、貴財団には多大な御支援いただきました。厚く御礼申し上げます。

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